2010年6月9日水曜日

早稲田大学校歌の正しい歌い方・その2

 校歌研究会の会員だったおかげで、創立125周年の2007年秋には、資料展のパネル展示の原稿を書かせて頂いたり、楽しい思いをずいぶんさせてもらった。その中に、学内誌の原稿チェックの依頼があって、丹念にチェックしたのはよかったのだが、自分のところに回ってこなかった部分で2番の歌詞に触れた下りで「一つに渦巻く大国の…」と出てしまって、担当の方も恐縮しておいでのようだった。日露戦争に勝った後とはいえ、校歌が作詞された1907年は「東亜の新秩序」だの「大東亜共栄圏」などという忌まわしい発想は唱えられていなかった時代で、校歌の「だいとうこくの大なる使命」は「大島国」、つまり日本列島と周辺の島嶼のことで、特に侵略主義的な思想を鼓吹するものではない(変なナショナリズムにかぶれた今どきの学生だと却って勘違いしそうで困るのだが…)。校歌研究会では大隈侯晩年の主張であった「東西文明の調和」に焦点があてられ、久しく関心がもたれなかった2番の歌詞の重要性について新たな話題を提供したが、これについてはいずれ別の機会で触れてみたい。

 本題に入るが、歌い方で問題となるのは、1番と同じく「やがても久遠の理想の影は」である。作曲者・東儀鉄笛が1907年に記した譜面では、下のようになる。


 この「りーそうの」という譜割は、現在では応援部で継承されて残っているものの、一般には次の形になっている。これは、1915(大正4)年に前坂重太郎が作曲者自身の指導のもと、校歌の伴奏と和声を含む編曲譜(所謂「早稲田マーチ」)をつくった際に訂正したものとされる。


 これは「その1」でも触れたように、3文字目を伸ばすという邦楽の伝統的な歌唱法に即したもので、「りーそお」ではなくて「り・そ・おー」の方が歌いやすいから、適切な改変と言える(どうせ変えるなら、1番の久遠も大正4年に一緒に直しておいてくれたらよかったのに…)。

 2007年の125周年記念演奏会で早混、グリー、フリューゲル、早合の連合軍が交響楽団と一緒に校歌を披露したときも怪しかったが、最近でも校友会の寄付講座などで新入生が校歌を歌っているのを聴いていてぎょっとさせられるのは、1番の久遠の歌い方を入学式の歌唱指導などで「くーおーんの」とうるさく仕込まれるのが逆に災いして、きちんと教えてもらっていない2番の久遠をこんなふうに歌ってしまう現役生がけっこういるらしいのである。


 これは、作曲者自筆譜、「早稲田マーチ」改訂譜のいずれとも異なる明らかな間違いである。もともとグリークラブの男声合唱版でも早混の旧旧・旧編曲でも2番は飛ばすから、公式な場で2番をちゃんと歌う機会がない。原調のニ長調により器楽付きの伴奏譜に基づいて1番から3番まで斉唱でも歌えるようにしておいた方が良い。学内各合唱サークル、特に非インカレ系の伝統を誇る3団体の責任は重大である。

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